5月20日にめぐろパーシモンホールで開催された「中村蓉さんのバロックと踊ろう!」に私たち津田塾大学梅五輪オペラワーキンググループは参加し、ダンスの魅力を存分に味わいました。
中村蓉さんの繊細かつダイナミックな演出と、チェンバロの美しい音色が融合し、とても有意義な時間でした。
その後、梅五輪プロジェクトオペラWGは演出家中村蓉さんとデイダミーアのキャストの皆さまにインタビューを行いました。
そのイベントの詳細について紹介させていただきます。
ご協力いただいたキャストの皆様は、清水理沙(デイダミーア役)、栗本萌(アキッレ役)、渡辺智美(アキッレ役)、目黒知史(リコメーデ役)です(敬称略)。
以下にそのインタビューの詳細をご紹介します。ぜひご覧ください。
井川(オペラWG)「今回のデイダミーアは、アッキレの正体がバレてしまうのではないか?という場面など、作品としては見せ場であるから大切にしていきたいが、大げさすぎるとわざとらしくなってしまうといった難しいところが多いと思います。このように見せ場が多くある舞台において、どのようなことを意識していらっしゃいますか。」
中村「そうです(笑)。大げさになってしまうんです(笑)。特にバックボーンにあるのが戦争であることから、あんまり茶化してはならない。今の時代は特に。そことのバランスは非常に意識していました。演出においては、現在との対比を胸に置きながら考えていました。私はとっちらかっているというか、、、弾け飛ぶ感じで、楽しくやっていたんですけど、アキッレとデイダミーアの二項対立が常にあって、アキッレは戦争に行きたいしウリッセは英雄としてのアキッレを望んでいる。対してデイダミーアは愛を望んでいる。私にとってはとてもバランスの良い作品だと感じました。そのアキッレの活発さに引っ張られながらも、デイダミーアが悲しんでいるというのを物語上でいつも意識しているし、実際に演じるデイダミーアは今どう思っているのだろうかと、彼女の顔を見ると考えなくてはいけないと思う。活発さとその裏にある悲しみ。キャストの顔からいつもバランスをとっていたという感じですね。」
井川(オペラWG)「今、お話にあった愛という概念ですが、ギリシャ神話がもとになっているお話のため、『愛』という漠然としたものが物語の軸となっています。この漠然とした『愛』は現代においても理解が難しく、解釈が多く存在しています。どうやってそういったわかりにくいものを伝えようとされましたか。」
中村「わかりにくい愛を可視化するために、今回はボールというか球体というのをデイダミーアの中で視覚化して使っています。だから、デイダミーアは常に愛情を抱いているというのをボールで表現しているとか、視覚化は工夫しましたね。みなさんどう思いますか。」
清水(デイダミーア役)「デイダミーアはただただアキッレのことが愛しくって、アキッレが戦争に行ってしまうと死んでしまうとの予言をお父様から教えられていて、頑張って引き止めようとするんです。その引き止めようとするまでの過程でも、アキッレと思い合ってはいるけれど、ちょっとアキッレが大切にしてくれていないんじゃないかと不安を感じているので、登場の時点で彼が自分と同じように愛してくれているのか、応えてくれているのかと常に不安を抱えています。愛に振り回されてる女性かなと。」
中村「今のは恋人への愛でしたけど、作品の中ではアキッレの母テティスの『母親が持つ子供への愛』もそうですし、『恋人からの愛』でもそうですし、世の中だとそれが繰り返されている。子供を失う悲しみも、愛を失う悲しみも、ギリシャ神話から始まって現代まで今いろんなニュースがありますけど、テティスはアキッレを産んで、そのアキッレはデイダミーアと出会ってデイダミーアとの子供を産む。そのデイダミーアの子供も戦争で死んでしまうので、愛を失う不安はこの作品ですごく描かれています。愛がただ暖かいものなのか、怒るとどうなるのか、愛を失う悲しみはどれぐらい大きいのか、と。そういうことが全部含まれた作品なのかなと思っています。」
井川(オペラWG)「中村さんがキャストの表情を見ながらみなさんで作り上げた作品だとお話しされていましたが、作品に影響した出来事などあれば教えてください。」
中村「日々影響をもらっていますね。私は全てが印象的で、、、。みなさん何かありますか。」
目黒(リコメーデ王役)「僕は割と好き放題やらせてもらっていて、言われたこと以外でも自分のアイデアでやらせてもらっています。そういうのを拾ってもらって、現場でそういう試行錯誤するというのがありましたね。」
井川(オペラWG)「みなさんとの関わり合いの中で完成に近づいていったという感じですかね。」
中村「もちろん、なんというか、私のアイデアやスタッフのアイデア、私とスタッフとそれ以外のその場にいる人も含めた、みんなで作り上げるのは割と特殊かもしれませんけど、一番いい答えを常に出したいので、私の限界なんて超えてほしいと思っています。私の限界をとっくに超えたアイデアとキャラクターの把握力があるので、そこに毎回寄り添ってみんなで作っているというのを見てくれる人に味わってほしいと思います。新しいやり方かなと思います。誰か1人の天才を立てて演出するというのは従来よくあるやり方で、王道としてあると思うんです。1人の健気な演出家を助けて出来上がっていくのも令和のリーダシップのあり方としていいのかななんて、と言い訳してますけど(笑)。みんなで作り上げるのはいいことかなと思います。」
今回のイベントを通じて、「愛」や「戦争」といった難しいテーマについて考えさせられる貴重な機会となりました。
特に「愛」は、その関係性や状況に応じて多様な形を持ち、常に私たちの身近に存在していることを強く感じました。
さらに、作品をつくり上げる過程で見られたアイデアや表情などを通して、中村蓉さんやキャストの皆さんの「デイダミーア」に対する深い愛情がひしひしと伝わってきました。
このイベントを通じて、参加者は新たな視点で「愛」や「戦争」について考える機会を得ることができたと思います。
*掲載に際し、インタビュー内容を一部編集しております。
2024年5月25日から2024年5月26日にかけてめぐろパーシモンホール 大ホールにて東京二期会の『デイダミーア』が行われました。
私たち梅五輪ワーキンググループは5月25日の初日公演に東京二期会から招待していただきました。
この『デイダミーア』はギリシャ神話がモデルとなった作品ですが、今回の舞台装備はとてもモダンで私たち梅五輪オペラワーキングメンバーは大変驚きました。このような舞台装備は二期会オペラの演出としても新しく、新鮮でした。
しかし、この舞台装置はオペラ歌手の歌声や演技をより引き立て、その結果、登場人物の心情が観客により強く伝わり、胸が高まりました。
そのため、『デイダミーア』はオペラ初心者には難しい内容ですが、そんな人でも理解しやすい内容だったと思われます。
そして「中村蓉さんのバロックと踊ろう!」で体験した中村蓉さん振り付けのバロックのシーンもありましたが、オペラ歌手は歌いながら激しいダンスを踊っていました。
私たちは踊っているだけで疲れてしまいましたが、オペラ歌手はそこに歌も入っていたためオペラ歌手の体力と技術に圧倒されました。
そして2024年7月18日〜21日にかけて『蝶々夫人』の公演が行われました。
今回の『蝶々夫人』は演出が宮本亜門、衣装が高田賢三と大変豪華な演出でした。
私たちオペラWGのメンバーは、東京二期会様に『蝶々夫人』が出来上がるまでについてインタビューを行いました。そちらの記事も随時公開予定です。
是非楽しみにしていてください。
記事作成者:井川令那、村松怜菜